13周年記念 下向惠子展
2022年10月1日〜30日
ご挨拶
Hair Salon Tenは、お陰様で13周年を迎える事が出来ます。
誠にありがとうございます。
この13年間、沢山の方に支えて頂き、沢山の出会いも頂きました。
サロンを持つ事で、色々な目線が変わり、出会いの大切さを知り、また出会いの幅も広がり、普段では出会えないような方々とお話しが出来ました。
今回、展示会をさせて頂く事になった作家、下向惠子氏もそのお一人です。
下向氏の作品を初めて拝見したのは、2012年3月にAzabujūban Galleryで行われた
『MYHOS 下向惠子展』でした。
私の母は建築業(大工)家系の7人兄弟の一人娘で、一人娘の長男の私は祖母にとても可愛がってもらい、色々な所に一緒に連れて行ってくれたのを覚えています。
祖母は職人さん達が怪我などをしない様に、毎月近くの神社に安全祈願をした波の華(お塩)を頂きに行き、そのお塩でおむすびを握り、漬物を漬け、職人さんが食べる物に使う事で安全を祈願していたようです。昭和50年代の事です。
祖母は毎月そのお塩を取り行く時に、小さな私を連れて行ってくれたので、自然と私は「祓い言葉」を覚えてしまう程でした。今もお祭大好き、お神輿大好きなのは、その影響かと思います。日本の伝説にも興味が湧き、古事記を漫画で読んだり、また大人になってからは本でも読み、神様の伝説なのに無茶苦茶な神様も登場するし、いじめもあるし、人間みたいだなと教訓を感じていました。
2012年の『MYHOS 下向惠子展』に訪れた時は、古事記がインスピレーションの題材になっていると知らずに行きましたが、作品達が生み出す空気感がとても落ち着き、惹きつけられて、時間を忘れて作品を観ていました。作品の題名を見ると私が知っている古事記に出てくる神々の名前であったことに驚き、更に興味を持ちました。
その時一番気に入った作品を購入し、現在サロン1階に展示しています。
この時はまだ下向氏とは出会っておりません。この展示会でもう一点気に入った作品がありましたが資金的に購入できず、ずっと心残りでおりましたが、2020年に8年越しで下向氏に直接ご連絡をしたところ、そのもうひとつの作品の『Onogoro』が奇跡的に残っていて、晴れて購入する事ができました。
これをきっかけに初めて下向氏にお目にかかり、今ではヘアを任せて頂きながら、色々お話を伺い、今回の展示会のお話まで辿り着きました。
サロンテーマである
『人と人を結ぶ場でありたい』
Ten → 手 TE と 縁 EN
この思いにご賛同いただき、13周年の記念に展示会を開催する事が出来たことを、心から嬉しく思います。
私は20代前半からサーフィンを趣味でしており、朝焼けに魅了されています。
氏の作品は、その朝焼けの様な、雲に写る美しい朱色、その周りの空が翡翠のような優しいグリーンになる様子や、朝焼けが終わり、太陽が昇って陽の光が強くなると、遠くの島や岬が藍色に変化し、光を浴びた海の色が白くなっていく、正にそんな地球や海が生み出す素晴らしい景色を見ているようです。
皆様にも下向氏の作品を見ていただき、忙しい毎日、変化の早い現代から少し離れ、癒される時間を感じていただけたら幸いです。
心よりお待ちいたしております。
高御産巣日(左)
古事記上巻から。天上界の高天原にまず現れた最高神「天之御中主(あめのみなかぬし)」の次に現れたのが天上界の創造神「高御産巣日(たかみむすび)」です。「むす」は植物の生成力、「ひ」は霊を意味し、別名「高木神(たかぎのかみ)」ともいう。地球の生命の源である植物を繁茂させる力をイメージしました。
神産巣日(右)
古事記上巻から。天上界の高天原にまず現れた最高神「天之御中主(あめのみなかぬし)」の次に「高御産巣日(たかみむすび)」、三番目に現れたのが地上界の創造神「神産巣日(かむむすび)」。「高御産巣日」同様植物の生成力を持った神で『出雲国風土記』では「御祖神(みおやのみこと)」と呼ばれて、出雲の神々の祖神とされている。
各90×60cm
パネルの上に和紙・顔彩・樹脂膠
産巣日の神
この作品は通常 hair salon Ten 1階奥のシャンプールームに飾られています。
「高御産巣日(たかみむすび)」と「神産巣日(かむむすび)」を結びつけた最強の創造神をイメージした作品です。
「産巣日(産霊)の神は人格神ではない。この後、古事記に登場してくる様々な神々を生み、さらには天地自然、森羅万象あらゆるものに生命を賦与するような霊的な働きをつかさどる非人格神である。つまり『産霊』とは,【生命の根源】たる霊魂(たま)そのもののことなのだ。」と折口信夫は(—神道宗教化の意義—より)言っています。むすぶとは、霊魂(たま)をものに密着させ生命を活性化させること。いわば神を創りだす神です。同時に「結び」も連想させることから、人と人を結びつける存在をも連想させます。
90×60cm
パネルの上に和紙・顔彩・樹脂膠
淤能碁呂嶋
古事記上巻から。イザナギとイザナミが先輩の天神から「浮遊している国土をしっかり固定せよ」と言いつかり、天地の間にかかる天浮橋から、ながい天沼矛をおろし、何度もかきまわし引き上げる時に滴り落ちる塩が積もって出来たのが淤能碁呂嶋(おのごろじま)です。いよいよこの島で試行錯誤を繰り返しながら二神の子づくり(国づくり)がはじまるのです。
36.4×25.7cm
頭上の月読
古事記上巻から。天上界の高天原にまず現れた最高神「天之御中主(あめのみなかぬし)」の次に「高御産巣日(たかみむすび)」、三番目に現れたのが地上界の創造神「神産巣日(かむむすび)」。「高御産巣日」同様植物の生成力を持った神で『出雲国風土記』では「御祖神(みおやのみこと)」と呼ばれて、出雲の神々の祖神とされている。
90×60cm
パネルの上に和紙・顔彩・樹脂膠
大神実
古事記上巻から。「黄泉比良坂(よもつひらさか)」は黄泉の国(死者の世界)と生者の世界との境界。ここでの物語。
火の神を産んだことで黄泉の国へ行ってしまったイザナミを追いかけたイザナギ。が、時すでにおそし。イザナミが見ないでくれというのに、灯を灯して見てしまうイザナギ。(この辺り神話や童話などによくある展開ですね)腐乱した死体にはすでにウジ虫が湧いていました。見られたイザナミは怒り狂い追いかけます。(当然ですよね) あれこれ投げながら逃げるイザナギ。呪力のある桃の実に救われたイザナギはこれを「大神実(おほかむづみ)」と名づけました。なるほど「桃太郎」のお話もここから来ていたのですね。
神々共に咲ひき
「笑う は 咲く?」
『古事記』の上巻に、太陽神アマテラスが天の岩屋戸に隠れてしまう神話があります。
天地が真っ暗になり、困り果てた天上の神々が策を練ってアメノウズメの踊りでアマテラスを誘い出す場面です。ここに「八百万の神共に咲ひき(やおよろづのかみともにわらひき)」と言う表現が出てきます。
伏せた桶の上に立って足踏み鳴らし、神がかりして乳房も露わに踊るウズメ。
それを見て高天原が鳴り響くほど大笑いする神々。
足踏み鳴らす振動に大笑いが振動を増幅させ、それがアマテラスの生気を蘇らせます。
そして世界が再び明るさを取り戻すのです。
冬至の頃には世界のあちこちで太陽の死と再生に関わる鎮魂の祭りがあります。
季節はまさに冬から春へ。「笑ひき」ではなく「咲ひき」と表すのも花咲く季節の春と結びつきます。俳句には「山笑う」という春の季語もありますしね。
80×160cm
パネルの上に和紙・顔彩・樹脂膠
大きな作品を描く前には、小さな紙に鉛筆やパステルを使って何枚もドローイングを描いて全体のイメージをつかみます。 そして実際に和紙に描く時には下描きをしません。 小品の場合は、和紙に直接描き始めます。 初めに和紙に筆を下ろす時はなるべくリラックスして呼吸を整え、手先だけでなく身体全体で線や点を描くようにしています。
平面作品の場合 木製パネルの上に雲肌麻紙・顔彩・樹脂膠
掛け軸の場合は楮紙(こうぞし 今は新潟県の小国和紙)・顔彩・樹脂膠以前は動物性の膠を使っていましたが、日本画を勉強したわけではないので扱いが難しく、樹脂膠に変えました。筆は作品の大きさに合わせて、大きな刷毛から小さな面相筆まで使っています。